アウト*サイダー

「……っちょ……待って……くる、し……!」

 プロレス技でもかけられているのかと本気で思うくらい、彼の腕が私を締め上げていた。

 これは照れるとかのアレじゃない。生命維持の危機を感じたので、ギブアップの意思を伝える為、ケイの背中をバシバシと叩く。

 電話の後、彼は本当に家まで来た。二階の勝手口から外に出て、階段の下でこちらを見上げる彼を見た途端、私は滑り落ちるように階段を下りてその胸元にダイブした。

 そこまでは完璧だった。

 問題はそこからだ。

 抱きついて、一通り満足した(まず彼の匂いを嗅ぎ、筋肉質で広い背中を撫でまくった)私はケイの顔を見ようとした。

 すると、上から覆った腕が私の体の自由を見事に奪い、今の状況に至る。

「……ハスミ」

 耳に唇が触れ、掠れた声で囁かれる。そのゾクゾクした感触に背中がのけ反った。絞り出した抗議の声も弱々しく頼りなかった。

 早くも羞恥に堪えきれなくなりそうだ。

 抵抗を止めた私に、ケイが少しだけ距離を開けて、そこでようやく彼の顔を近くで見れた。

 額から流れる汗、薄い唇は何かを我慢しているように引き結ばれ、長い前髪から覗く陰鬱な目が私を見下ろしていた。

 その、彼の突き刺すような視線が落ち着かなくて私は目を彷徨わせる。

 何か言ってくれたら良いのに。

 でも、こういう時の彼が考えていることは一つしかない。

 彼の手が頬に触れて、私の顔を上げさせた事でより確信する。
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