アウト*サイダー
彼のこういう所が卑怯だ。私の扱い方を熟知していて、機嫌取りなのが見え見えなのに、私はそれすらも喜んでいる。
彼を飼い慣らしているような優越感を与えられながらも、その実、私の手綱は彼が引き、尻尾を振っているのは私なのだ。
「どこに行く?」
不機嫌さなんて吹き飛んだ顔で聞く私の元へ近寄ったケイが目を細める。
「どこへでも。水族館とか遊園地、ショッピング、食べ歩き……ハスミが好きなことしようよ」
「じゃあ全部は?」
彼に抱きついて顔を見上げた私の髪に触れ、その手を後ろにすきながらケイは破顔する。
「俺の可愛い彼女の願いはいくつでも叶えてあげる」
彼の後ろに広がる夏の空。真っ青な色だ。私の心もその色に染まる。清々しく晴れ渡って、翳りがない。
「大好きだよ、ケイ」
私の中の奥に引っ込めた暗いものが、一瞬でも無くなったような気になれる。
いつも平気で甘い言葉を言うのに、私からの言葉には途端に余裕をなくして照れてしまう彼の赤い顔も、私の背中に回された腕に少し力が込められるのも、私を舞い上がらせる。
この夏がずっと続けば良いのに。……と言うよりも、そうだ。
「ずっと一緒に居られたら良いのに」
私の呟きは、次の瞬間には彼に塞がれていた。
言葉の返事よりも分かりやすい返し方に笑うと、彼も笑って「近い内にハスミを奪いに来るよ。お義父さんには果たし状として婚姻届を持ってこようか」と言うから、私はまた声をあげて笑った。
困った顔で立ち尽くす父と、両手を挙げて大喜びする母の姿が思い浮かんだ。