アウト＊サイダー

* 優しさに溶けて

　始業式という日はいつもそうだが、ある日突然やって来る。学校の狭く息苦しい空間からやっと解放されたかと思えば、またすぐに新しい学期に入るのだ。

　朝から既に暑すぎる日差しの中、自転車を走らせる。とうとう終わってしまった夏休みを憂いながら、赤信号で止まった私の隣に誰かが後ろから来た。

　視線を向けた先にはハルちゃんが居て「おはよう、ハスミちゃん！」と、とびきりの笑顔を見せてくれた。

　朝から彼女の可愛さに悶える私。学校が始まるのが嫌で仕方なかったが、毎日ハルちゃんに会えるのだから、嫌な事ばかりではないな。

「ありがとう、ハルちゃん。私のささくれた心が見事に癒されたよ」

　手を合わせて拝むと、ハルちゃんは困惑気味に小首を傾げる。そんな姿まで愛らしい。

「あ、信号変わった。行こう？」

　彼女の笑顔のおかげで重かった足が軽くなったようだ。なんなら両手を離しても走り出せ……は、しなかった。

「ハスミちゃんって意外と運動音痴なんだから、ちゃんと両手でハンドル持った方が良いよ」

　ペダルを押し込んだ足がうまく回らず早々に地面に付いた私に、立ち止まった彼女が振り返って言う。

　同じことをトクラに言われたのならば、ここは修羅場となっていたであろう。だがしかし、ハルちゃんのこの邪気の無い微笑み。それはまごうことなき天女の笑み。有り難きこと、この上ない。

「今日も絶好調に麗しいね」

「早く行くよー？」

　私の言葉が聞こえなかったのか、走り出してしまった。

　風に乗って香る花のような匂いが鼻腔をくすぐる。その残り香を追って、私も学校へ向かった。