シンシアリー
・・・あのフクロウの羽根ペンは、お父様から初めて贈られたものだったから、ペンとして使わずに、お守りとして持ち歩いていたものだったのに・・・。

ばらまかれた物を全てバッグに収めたレティシアは、立ち上がると、汚れを払うように、茶色のスカートをパタパタと軽く叩いた。
そして右手でバッグを持ち、さっきヘルメースに掴まれた二の腕に、左手のひらを自然と当てる。
それで痛みが引くかのように―――。

・・・ここには指痕がついているかもしれない。けど、袖の長いブラウスを着ているから、誰にも気づかれないわよね。
それよりも、心の方がもっと・・・傷ついたわ・・・。

さすがに先の一件は、レティシアの気持ちを底近くまで落ち込ませた。

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