シンシアリー
「但し、ラテン語表記じゃないから」
「・・・トワイク語ね」
「その様子じゃあ大丈夫だな」
「問題ないわ」
「申し訳ないけど、それ、借りたものだから、後で返さなきゃいけないんだ」
「大切にして読むわ。ありがとう、ナサニエル。トワイク語ということは、絹職人のどなたからかお借りしたのかしら?」
「そういうこと」

オーストワイクから受け入れた絹職人の妹に、ナサニエルが想いを寄せていることを薄々感づいているレティシアは、納得顔で頷いた。

「これは、話の“きっかけ”を与えてくれたお礼ですよ」
「まぁ」

クスクス笑うレティシアの、屈託のない表情を見て、ユーグの胸の奥がドクンと疼く。
しかしユーグは、そんなそぶりを決して表には出さなかった。

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