シンシアリー
熱い想い
よく通る低い声で「姫様ーっ!」と呼ばれたレティシアは、ハッとしながらふり向いた。

・・・この声は・・・!

レティシアが「・・・ユーグ」と呟いたときにはもう、ユーグはすでに、彼女のそばまで来ていた。

ユーグは、「右腕のこの辺り」と言いながら、自分の逞しい右の二の腕に、自分の左手を置いた。

「どうしたんですか」
「え?」
「時々触ってたでしょう。労わるように。痛むんですか」
「あぁ・・・。いえ、これは・・さっき、ここに来る前にぶつけちゃって」
「どこに」
「えっと・・壁に。別に、大したことはないの。本当に。痛みも大分引いたし」

ユーグは、自分を安心させるように微笑むレティシアの手や頬に、そっと、優しく触れたい、いや、一思いに姫を抱きしめたいという気持ちを、必死で押さえた。

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