シンシアリー
「・・・そうでしたか。公子様ともあろう御方が、実の姉に対して何という乱暴な振る舞いを・・・!」
「姫様。腕はもう痛くないの?」
「ええ。痛くないわ。お尻だって、脂肪がクッションになってくれたおかげで全然痛くないし」
「それでも私は心配ですよ。さあ姫様。台所へ行きましょう。腕に痛み止めの軟膏を塗りますからね」
「・・・ありがとう、エイダさん」

腕の痛みは本当になくなっていたのだが、エイダの気遣いが、心に染み入る程、とても嬉しかったレティシアは、エイダの言うことを素直に聞いた。

レティシアがエイダに見せた右の二の腕には、かすかな指痕しか残っていなかった。
これなら姫が言うとおり、痛みはもうないはずだ。
しかし、何か手当をせずにはいられないという母性が働いていたエイダは、透明な軟膏を、姫の華奢な二の腕に、そっと塗ってあげた。
そんなエイダの優しさに触れたレティシアは、ヘーゼル色の瞳を潤ませた―――。

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