シンシアリー
その出来事があってから数ヶ月後、レティシア姫の母であるカサンドラ妃が亡くなった。
以来レティシアは、図書室の他にもう一箇所、足しげく通う場所ができた。
亡母・カサンドラが埋葬された墓地である。
両親の愛情がどういうものなのか、よく知らずに育ったレティシアだが、生みの母親が亡くなったことは素直に悲しいと思っており、その気持ちが、レティシアを墓地に向かわせていた。
そして生みの母の死という出来事は、幼いレティシア姫に生まれて初めて喪失感というものをもたらした。
レティシア姫は、生前の母の温もりや香りがどんなものだったか、あまり覚えていない。
しかし亡き母の墓に向かって話しかけることで、「母と娘の会話」が、今このときできているような気が、幼いレティシア姫にはするのだ。

そんなレティシアの健気な姿を見た人々は、「母を亡くした可哀想な姫」と同情を寄せた。
そして、レティシアの父・ゼノス大公は、それなりに愛していた妻を亡くした悲しみに浸っていたものの、それからすぐにアレッシアが妊娠し、運良く一度目で跡継ぎの男子が生まれたことで、ようやくプレッシャーから解放されたのだろう。
娘のレティシアも、母を亡くして悲しんでいるのだと気がつく心のゆとりが生まれた。
それからゼノスは、父として、レティシアのことをなるべく構うように心がけはしたものの・・・。
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