シンシアリー
ヘルメースは怪訝な顔で、向かいに座っているレティシアを見た。
セイヴィアーを偲ぶ気持ちもなく、そしてユーグのことを、人ではなく、物のように見ているヘルメースに対して、まだ怒りをくすぶらせていたレティシアは、「受けて立ちます!」と言わんばかりにヘーゼル色の瞳をギラギラ燃えさせながら、ヘルメースをキッと見返した。

「父上。姉上に護衛なんかつける必要はないでしょう」
「私もそう思ったんだがな。ユーグの方から強く希望したのと、もう一つ・・セイヴィアーの遺志でもあると言われてな。だったら断るべきではないと判断したまでだ」
「・・お父様・・・」

・・・ベイルさんが、そんなことをユーグに託していたの・・・?
やっぱり、ベイルさんは天国に逝ってしまっても、私のことを見守ってくれているんだ・・・。

セイヴィアーの「遺志」に、そして、セイヴィアーの遺志を受け継いでくれたユーグに、何より、それを受け入れてくれたゼノス大公の配慮に感激したレティシアは、たちまちヘルメースに対する怒りの気持ちを失くした。
そしてヘーゼル色の瞳を、感謝の気持ちで潤ませた。

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