シンシアリー
「・・・お父様」
「なんだ?レティシア」
「これは冗談でも、大げさに誇張していることでもなく、私はヘルメースに殺されそうになりました。ヘルメースは普段から私のことを憎んでいますが、あのときは憎しみを通り越して、殺意を抱いていました」
「それはおまえの考え過ぎではないか?母親が違えど、ヘルメースはおまえの弟なんだぞ」
「ええ、そうですね。・・・分かりました。もう結構です。私はただ、お父様に事実をお伝えしに来ただけですので」
「お、おいレティシアッ」

ドアに向かって歩き出したレティシア(とユーグ)に向かって、ゼノス大公は慌てた口調で「待ちなさいっ!」と止めた。
それを聞いて、すぐに立ち止まったレティシアに倣い、ユーグも立ち止まる。
そして二人はその場から、再びゼノス大公の方へとふり向いた。

・・・大公様にも引けを取らない程の強い威厳と気高さを、姫様から感じる・・・。

ユーグは、レティシアの後姿に向かって微かに微笑みながら、レティシアのこと、そしてレティシアの護衛をしていることに、この上ない喜びと誇りを感じていた。

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