シンシアリー
「エストゥーラ王国のミカエルズ国王、ですか・・・」
「養蚕業に関わっていたおまえなら、色々な“事情”は知っていると思う」
「・・・ええ。存じています」
「すまないな、レティシア。だが、これが自由が欲しいというおまえの願いを叶える、唯一の方法なのだ」
「はい。分かります、お父様」
「ではレティシアよ。エストゥーラ王国より承諾の書簡が届き次第、おまえはザッハルト家を出、エストゥーラ王国国王・コンスタンティン・ミカエルズの許へ嫁ぐように」

レティシアはスカートの両裾を少し持ち上げ、片膝をカクンと折って淑女の礼をしながら、ゼノス大公に「分かりました、大公様」と返事をした。
レティシアの後方に控え立っていたユーグは、終始無表情を装っていたものの、思わず握ってしまった拳の震えまでは止めることができなかった―――。

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