シンシアリー
・・・レティシア姫はまだ5歳。父親であるゼノス様は、素直に愛情を表現することができないまま姫様を放置している状態で、継母となった新公妃に至っては、姫様を邪険に扱い、決して姫様の母親になろうとはしない。かけられた愛情が薄かったにせよ、亡き母を偲ぶ涙を流すのは当たり前のことだろう。お可哀想に・・・。

心の中ではそう思っていても、セイヴィアーはいつも、レティシア姫の前では穏やかな笑みを浮かべるよう、心がけていた。
自分は味方であることを、姫に知っててほしいからである。
何より、ブルドックのようないかつい顔と、鍛え上げられたたくましい体つきをしているセイヴィアーは、ただ立っているだけでは5歳の姫に威圧感と不安を与えるだけだと心得ているのだ。

セイヴィアーは連れの少年に「ここで待ってろ」と言うと、馬からひらりと降りて笑みを浮かべながら、レティシアの方へ歩いていった。

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