シンシアリー
それでもレティシアは、彼らからアンドゥーラの絹製品を褒められるたび、素直に喜んだ。
絹工場で働いている人々や、染色家たちの努力が見事に実っていることが嬉しかったのだ。
自分の功績が表に出なくても一向に構わない。自分一人の力で成しえた事ではないと分かっているから。
レティシアの継母・アレッシア現公妃が思っていたとおり、諸外国から見てレティシアという姫は、とても目立たぬ存在としてしか写っていなかったのだが・・本当は逸材だったのである。

終始穏やかな、時に明るい笑顔で過ごしているレティシア新王妃が、皆が想像している以上に賢く、聡明であることは、この時点ではまだ誰も気がついていない。
それが、特にクリストフ宰相にとって、後に大きな誤算となった―――。

< 282 / 365 >

この作品をシェア

pagetop