シンシアリー
二人の出会い
レティシア姫とセイヴィアーから少しだけ離れたところで馬の番をしていたユーグは、「ユーグ・ベイルです。お目にかかれて光栄です、レティシア姫様」と言うと、深々と頭を下げ、礼儀正しく挨拶をした。

「初めまして。ベイルさん」

ドレスの裾を指先で持ち上げながら膝を曲げて挨拶を返すレティシアの姿には、まだあどけなさがたくさん残っているため、姫らしい優雅さを感じる以上に、どうしても可愛らしさが先立ってしまう。
とても高い知能を持っているレティシア姫は、普段、大人びた発言を多々するが、こういうときはまだ5歳の子どもなのだと、セイヴィアーはあらためて思う。
初めて間近で会い、挨拶を交わしたユーグも同じように思ったのだろう。
セイヴィアーの顔に、思わず安堵の笑みが、そしてユーグもニッコリと微笑んだ。

「それだと父も同じ呼び名になるので、僕のことは名前でお呼びください、姫様」
「あ、そうね」
「姫様、そろそろ」

セイヴィアーの手を借りて馬に乗ったレティシア姫を確認したユーグに、セイヴィアーは持っていた姫の聖書を託すと、三人は急いで公邸に帰った。

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