シンシアリー
「呼び名です。あの日・・ラビアラ王国の外務大臣と危うくぶつかりそうになったあのときのことです。その後すぐ執務室から出てきた貴方は、控えめに言っても、かなり落ち着きがありませんでした。焦っていたと表現しても良いでしょう。ですから、貴方は私とどんな会話をしたかまでは覚えていないかもしれません。あの時、私は国王様が御病気になられたので、その日に予定していたルクソスへの訪問は延期すると貴方に言いました。すると貴方はこう仰いました。“その事でしたらプリヤから聞いております”と。礼儀作法にはことのほか厳しいデュ・ラスさんのことを“プリヤ”と愛称で呼ぶのは、てっきり国王様だけだと思っていただけに、私はとても驚きましたが、もちろん顔には出しませんでした。でも、貴方が他人にデュ・ラスさんのことを愛称で呼んだのは、恐らく、後にも先にもこの時の一度だけだったと思いますわ。とにかく、貴方が焦っていたあまり、ついポロリと出てしまった愛称のおかげで、私はあなた方お二人が、特別な関係にあるのだと確信することができました」
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