シンシアリー
二つ目は、「ザッハルト家は男子ばかり生まれる」と言っても過言ではないくらいの、いわゆる男系の家系である。
それ故に、当主は男子世襲制という風習が出来上がったのかもしれない。
最後の三つ目、これが一番厄介な理由なのだが・・・。
「ザッハルト大公の第一子が女子であった場合、何か不吉なことが起こる」というジンクスが、アンドゥーラ公国には存在しているのだ。
ザッハルト家は男系だとは言っても、過去、女子が生まれたこともある。
しかも今から遡ること50年程前、ザッハルト家二代目大公の第一子は女子だったという。
しかしそのとき、未知の病が世界中で流行り、小さな公国でも、大公と、その第一女子を含む多くの人が死んだ。
例のジンクスは、どうやらその頃からアンドゥーラの人々の間に根付き始めたらしい。

これは、単にタイミングが重なっただけの話で、流行り病と第一子が女子であることに、何ら関係はないはずなのだが・・・ザッハルト家に生まれた久しぶりの女子であったこと、しかも第一子として生まれた初めての女子だったこともあって、「滅多にない何か、珍しいことが起こる」という予兆が転じて「何か、不吉なことが起こる」というジンクスになったのだろう。

そしてザッハルト家に女子が生まれた―――しかも第一子―――のは、実に50年ぶりのことだった。

< 5 / 365 >

この作品をシェア

pagetop