シンシアリー
レティシア姫のことを警戒し、「厄災に巻き込まれること」を避けていた彼らだが、姫が辛抱強く来訪を繰り返すうちに、人々や街に何らかの危害をもたらすような人物ではないと、そのうち気がついた。
なぜなら姫の訪問した場所には、その後何らかの「変化」が起こるからだ。
例えば、長い間放置されていた橋の修繕作業が突如始まる。
街に薬局が増える。
国境付近の森に生い茂っていた木々が、いくつか伐採されたときには、人々に十分な薪が行き渡った。互いの成長を阻み合っていた木々も、また伸びる。

一つ一つは些細な変化と言えるだろう。
しかし結果的に、街はより活気づく。
そして街の人々にとっては得することであり、ひいては、彼らの暮らしがより良くなることにつながる。
もちろん、それらの「変化」は、公国を統治しているゼノス大公の命により、実行されていったのだが、「薬を買いに行きたいんだが薬局が遠くて」「あの橋がちゃんと通れるようになれば、商品の流通ももっとラクになるんだがなぁ」といった、街の人々がふと漏らした声を聞き、それをゼノス大公に伝えて打開策を提案したのは、実際その場に赴いたレティシア姫なのだ。

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