シンシアリー
その日、学校で学んだ事を、喜々として話す姫に、彼らは相槌を打つ。時には一緒に笑う。
また、時には一緒に議論を交わすこともある。
そんな食事時の風景は、まさに「家族の団欒」そのものだ。
レティシアの生みの母親は、幼い時に亡くなり、いつも多忙な父親に、じっくりと腰を据えて構ってもらったこともない。
継母は、存在を疎ましく思う気持ちをそのままぶつけてくるし、継母に溺愛され、はたから見るとワガママ放題に育っている異母弟も然り。
だからレティシアは、「家族の愛情」がどんなものなのか、知らずに育った。

公邸に勤める女中や執事、庭師たちは、そんなレティシアに、今でこそ優しく接して、愛情を与えてくれる。
街の人々の大半は、もうレティシアのことを「忌まわしい存在」として惧れてはいない。
だが・・・。
いくら広い公邸で生まれ、そこで育っても、そこにレティシアの「居場所」はない。

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