シンシアリー
「やったなユーグ!」
「さっすが弓矢の名人!」
「でもこれは練習だから。実践ではこれに鎧を着るし、的の間には敵と味方が混在してるはずだから、真っ直ぐ射ることは難しいだろう」

仲間を指導していた厳しい口調とは打って変わって、今の彼の口調は、とても穏やかだ。
そして、先程まで乗っていた馬を撫でる手や、「よくやった、アポロン。ありがとう」と馬に言う声も、とても優しい。
騎士たちが休憩場所として使っているらしい、木陰の一角まで歩いたとき、彼らの元へ、見学していた女性たちがどっと押し寄せた。
大半がユーグのところに集まったのは、当然のことだろう。

「ユーグ様!どうぞこれをお使い下さいな」
「あぁ、ありがとう。でも汗拭きは持ってるから」
「ユーグ様っ!腕によりをかけて作ったお弁当です。どうぞ召し上がってください!」
「ありがとう。でも関係者以外の人たちから食べ物や飲み物をもらうことは、規則で禁止されてるんだ。本当にごめんね」

まとわりつくように群がる女性たちからの「差し入れ」を、やんわりと、しかし断固として受け取り拒否したユーグは、苦笑を浮かべながら、静かにその場を離れた。
< 93 / 365 >

この作品をシェア

pagetop