【短編】きみはだいきらいなソーダ味
きみはだいきらいなソーダ味
高校に入って初めてできた男友達。そいつはソーダと呼ばれるもの全てがすきなやつだった。
「ほら、お前にもやるよ」
そう言って差し出されたもの。確認しなくても分かる。ソーダ味のアイス。
学校からの帰り道。自転車を漕ぐ後ろで優雅に風に吹かれて着いたのはいつものコンビニ。中に入って涼むだけの私とは違って、夏村(ナツムラ)はこの時期、いつもソーダ味のアイスを買う。
「ありがと」
冷たい感触が気持ちいい。受け取って袋を開ければ、爽やかな水色をしたアイスが顔を出した。私が食べるよりも先に食べ始めていたヤツは「やっぱ美味いな」とか独り言をしている。
「あんたはソーダ味ならなんでも美味しいでしょ」
「当たり前だろ。真冬でもキンキンに冷えたソーダを飲む俺様に死角などない」
「あほか」
呆れつつ、既に汗をかき始めてアイスを一口、シャリっと音を立て齧る。そして、広がる味に耐えた。まあ、まだこれはマシだ。我慢すれば食べられるから良かった。
「お前だっていつもそれ食ってんだろ。俺があげるソーダもいつも貰うし好きなんじゃねえのかよ」
ソーダというより、炭酸は嫌いだ。しゅわしゅわとして痛いし、すぐにお腹が膨れるから。そもそも、あまりジュースさえ飲まない私には本来縁遠い飲み物。でも、君は知らない。知る由もない。
夏村がくれるものなら私はなんでももらうから。例えそれが、大嫌いなものでも。自分でも馬鹿らしいと思う。でも、きみが大好きなその味を、私は欲しいと思う。
夏村が好きだから。恋は盲目だ、なんてのは嘘じゃないと思う。くだらなくてもたったそれだけで好みさえ捻じ曲げてしまうのだから。
「そうだよ」
ほら、今日もくだらない嘘を吐く。大嫌いな味でも君を刻んでおきたい。
「じゃあ、宇野(ウノ)も偶には奢れよなー」
「やだよ」
「おい、なんでだよ」
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