【短編】きみはだいきらいなソーダ味
私は大嫌いなものをわざわざ買うような変人じゃない。夏村がくれるから欲しいんだ。そんなこと言えるわけもないけれど。
「だって、買わなくても買ってくれるし」
「もうお前には絶対買ってやらない」
プイっとそっぽを向く夏村は可愛い。それでも次、また一緒の帰り道になれば、一人で食べるのはなんか嫌だ、とか、そう言って
ヤツは買ってくれる優しいやつだ。
「お前みたいなやつよりやっぱり砂原(サハラ)さんの方が可愛らしくて可憐で優しくていいよなあ」
いつもの決まり文句。分かっていても胸は痛い。じわじわと滲む小さな傷はいつも治る前にまた出来る。
「無理無理。優花(ユウカ)ちゃんはあんたみたいなヤツ、好きになんないよ」
それでも、こんなこと言う可愛くない私に悲しくなる資格はない。
「はあー? 無理じゃねえしー。そんなこと言ってるからお前は誰とも付き合えねえんだよ」
「煩いわ。夏村みたいなヤツとは付き合わないからいいんだよ」
自ら首を絞めるようなことしか言えないなんて、どうしようもない。きみはきっと、振り向いてくれない。そもそも、好きな人がいるヤツになんて無理だ。
「宇野まじ腹立つ」
「勝手に言ってればー?」
言い合いをしつつ、アイスは溶けてドロドロになる前に食べ終え、また帰路についた。真夏の斜陽は空を真っ赤に染め上げて、全然涼しくなんてならない。それどころかとても暑くて、帰り道は汗がシャツをべったりと濡らす。それでもヤツは校則違反の二人乗りを止めない。最初は止めた私も最近じゃ言わなくなった。
「告ろうかな.....」
ぼそりと誰にも聞こえるはずがなかった独り言。それは風に運ばれて確かに私の耳に届いてしまった。何か言えるはずもなく、黙ってヤツの背中にしがみ付くしかなかった。