【短編】きみはだいきらいなソーダ味


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次の日、ヤツは有言実行した。本当に、大したやつだなと思う。私なんかと違って、最初から砂原さんに振り向いてもらえるように頑張って努力して、最近は仲良くしていた方だと思うし、いよいよ告白したんだから。ほんと、よくやった。

でも、その努力が実るとは限らない。昼休み、優花ちゃんを呼び出した姿を見た時はこの世の終わりのような絶望を感じた。上手くいけば、私達は一緒に帰ることはない。ヤツの自転車の後ろに乗るのも、ソーダ味のアイスを奢ってもらえるのも、きっと優花ちゃんのものになる。

私も少しくらいは努力すればよかったと、今になって後悔するほどだったのに、それは杞憂に終わった。夏村が落ち込んだ顔で帰ってきたことによって。

 放課後、日直の仕事を終えて、日誌を先生のいる職員室に届け、帰って来ると、机に一人突っ伏す夏村がいた。それを通り越して、自分の机に向かう。机の上にほったらかしだったシャーペンや消しゴムを片付け、ペンケースを鞄に仕舞う。その音しか聞こえない教室は居心地が悪かった。

全ての用意を終えて、帰ろうと鞄を持ち上げた時、夏村が顔を上げた。情けない顔だった。泣いてはいなかったけど、今にも泣きそうな顔だった。本気だった。きみの恋は本気だった。その目が言っている。でも、何も気の利いた言葉が浮かばない。落ち込んだ様子のヤツを見て、安心した私に浮かぶはずはなかった。


「砂原さんに告ったんだ。振られた。お前の言う通りだった」


力なく笑う夏村が痛々しかった。なんて言葉をかければいいんだろう。夏村が好きな私に励ましの言葉を求めないでほしい。上手く言えるわけない。私はそんなに器用じゃない。


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