【短編】きみはだいきらいなソーダ味
「ほらね、優花ちゃんみたいに可愛い子は他にも言い寄ってくる男はごまんといるんだよ」
「うん、そうだな。釣り合うわけなかった......」
違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。どうして、こんな時くらい寄り添えるようなこと、言ってやれないんだろう。釣り合わないのは私の方だ。夏村は何も頑張ろうとしなかった私とは大違い。自分の気持ちと、優花ちゃんと、向き合った夏村はすごい。私は今まで、そんなことできなかった。
「嘘だよ。あんたは頑張ってた。仲良くなろうって、自分のことを知ってもらおうって、近づくための努力をしてた。その努力は褒められていいものだと思う。よく頑張ったよ」
いつも言い合いしかしない私たちの関係。私達は直接褒め合ったりとかしない。ううん、私がしない。そういうの、得意じゃないから。でも、珍しく褒めたものだから、夏村は目を見開いて驚いた。
「おっまえ、ずるいなあ。こんな時に褒めるなんて泣けるだろうがばかやろう」
私もきみみたいに頑張ったら少しは届くだろうか。何もしなくて後悔だけするような嫌な自分とさよならくらいはできるだろうか。それは今からでも遅くないだろうか。
「偶には褒めてやろうと思ったんだよ。傷心中の可哀想な夏村君を思って」
「はあー!? 上から目線超腹立つ。うぜえ」
「はいはい、分かったから。じゃあね。明日学校サボんないでよ」
返事も聞かずに教室のドアに向かうと『当り前じゃボケ!』と言う声が私を見送った。振り向かなかった。きっと、泣きたいだろうから。邪魔しちゃいけない。弱っている君に付け込むのはフェアじゃない。私達の関係はまだ、罵倒し合うくらいが丁度いい。涙を見るのは私の役目じゃない。