【短編】きみはだいきらいなソーダ味


それから暫く、一緒に帰る機会はなかった。まあ、いつも約束しているわけでもなく、不定期に一緒に帰るだけだから当然と言えばそうだけど。今日は久々に一緒に帰ろうぜと声を掛けられた。いつものように、ヤツの自転車の後ろに乗って、コンビニへ向かう。

暫くして着いて、さっさとコンビニへ入る夏村を追いかけた。迷うことなく突き進んで、お目当てのソーダ味のアイスを二つ、ヤツは手に取る。それを私は奪い取った。


「なんだよ」

「今日は私が奢ってあげるよ」

「お前、どうしちゃったの。この前の時と言い、おかしいぞ。気持ちわりい。明日雹でも降んのか?」


あまりにも失礼な物言いの夏村に腹が立って、思い切り足を踏みつけてやった。『いってぇー!』と迷惑なほどに声を上げるヤツを無視して、レジへ向かう。店員さんに迷惑そうな顔をされて、少しだけ居心地が悪かった。ちょっと、やりすぎたかもしれない。

会計を済ませて外へ出ると、先に自転車の元で待っていた夏村がこちらを見た。不機嫌そうな顔を保ちつつも私の手元にあるアイスを見つめる瞳がきらきらしているような気がするのは気のせいではないと思う。


「あれ、なんで一個なんだよ。まさか、ここで俺にはやらんとか言うんじゃねえだろうな?」


ヤツの疑り深さには正直呆れる。そこまで私は酷いやつじゃないし、ほんと失礼にも程がある。私はこんなヤツのどこがいいんだろう。そう思わないわけじゃない。好きって感情は理屈で説明するのが難しい。


「そんなわけないし、ばーか」

「ああ゛っ?」


威嚇する声を無視してアイスを差し出すと、子犬のように目を輝かせた。分かりやすく面白いヤツだ。ちょっと笑ったのに気付いたのか、また不機嫌な顔になる。


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