お前の涙、俺だけに見せて
「西野の親、優しそうな人だな」
廊下で、三神君は独り言のように言った。
「ありがとう」
自分の家族を褒められたら、やっぱり嬉しいな。
そのせいか、勝手に顔がにやけてしまう。
「西野、家どこ?送ってくよ」
外に出たら、三神君は当たり前のようにそう言った。
「ううん、大丈夫。帰りに買い物するつもりだし」
「晩飯の?」
「そうだよ」
「自分で作ってるんだな」
三神君は驚いてるような顔をした。
小さいころから、自分で作るのが当たり前と思ってたんだよね。
だから、この反応に少し違和感。
「そんなに上手くないよ。なんとか、人が食べられる程度かな。あ、よかったら、食べに来ない?今日のお礼として」
「いや、明日弁当を作ってきてくれるのでいい」
「わかった」
門の近くに来たため、私は足を止めた。
そして、頭を下げる。
「今日はありがとうね。助かりました」
「明日、楽しみにしてる」
三神君は私の頭を軽く叩くと、うちと反対の方向に歩いていった。
もし、本当に送ってもらったなら、もうしわけなさでいっぱいになるところだったな。
さ、私も帰ろう。
明日の弁当、どんなおかずにしようか、なんて考えながら、軽い足取りで家に帰った。