お前の涙、俺だけに見せて
その返答に、野澤君のお父さんも、私のお父さんも目を丸めた。
「どうして……ですか?」
そう質問したのはお父さん。
この中で一番、この婚約で得する人だもん。
理由知りたがるのも、不思議じゃない。
「俺……僕は花さんのことを恋愛感情で好きと思ったことは一度もありません。第一、僕にも花さんにも、恋人がいますし」
お父さんの質問に、野澤君は丁寧に答えた。
なんだか、違和感しかない話し方。
目の前にいるのが野澤君じゃないみたい。
「そうならそうと、早く言わないか」
「そっちが俺の話を聞かなかったんだろ」
自分の親と話すときは、いつもの口調だ……
こっちのほうが落ち着く自分がいるよ、うん。
「そういうことなら、相馬さん。今回の話はなかったことに」
お父さんは相当ショックなのか、黙ってうつむいていた。
野澤君のお父さんと、野澤君はそのまま席を立ち、帰っていった。
「お父さん?」
「……帰ろうか」