お前の涙、俺だけに見せて


三神君の言葉が妙に胸に引っかかって、私は足を止めた。



「……ごめん、三神君。今日の約束はまた今度にしてほしい」



先を行く三神君の背中にそう言うと、私は病室に戻った。



ドアに手をかけると、中から慌てたような声が聞こえてきた。


嫌な予感がしてドアを開けて中に入ると、ベッドに横になっているお母さんは、医者と看護師に囲まれていた。



「おかあ……さん……?」



今の状況が理解出来なくて、言葉を口にするのもやっとのことだった。



すると、ピー、という電子音が部屋に鳴り響いた。


さっきまで騒がしかったはずの病室に、静寂が訪れる。



「……ここまでか」



ベッドの傍に立つ医者が、そう呟いた。


闇に消え入りそうな声量だったのに、私の耳にこびりついて離れなかった。



「西野さん、大変残念ですが……」



私に気付いた医者は、目を伏せながら語尾を濁らした。



「嘘……」



私、お母さんに酷いこと言って……


まだ、謝ってないのに……


もっと、お母さんと一緒にいたかったのに……



悔しさとか、悲しさとか、とにかくいろんな感情が溢れて止まらなかった。



それと同じくらい、涙も止まらなかった。

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