お前の涙、俺だけに見せて
私は耳を疑った。
お母さんが……あと二ヶ月で死ぬ?
「詩織さんは癌でして、発見が遅く、もう手遅れかと……」
「そんな……」
頭が真っ白になった。
担当医がどんどん説明をしていってるけど、全然頭に入ってこない。
そうか、だからお兄さんが呼ばれたんだ……
私が説明を聞けないってことを見越して。
「おい、帰るぞ」
いつの間にか説明が終わっていたらしく、お兄さんが不機嫌そうな顔をしていた。
お母さんとお兄さんは、仲が悪い。
お婆ちゃんに聞けば、昔からだったみたい。
ここに来るのも、嫌だったんだろうな……
てか、お母さんの娘だからっていう理由で、私も嫌われてるんだよなあ……
「さっさとしろ」
お兄さんの声がさらに低くなる。
「ごめんなさい、お母さんのところに寄って帰ります」
「チッ」
お兄さんは舌打ちをすると、私を置いて、部屋を出ていった。
正直動きたくなかったけど、いつまでもここに居座るわけにもいかなくて、私は重い足取りでまたお母さんの病室に向かった。