お前の涙、俺だけに見せて
「あら、花。どうしたの?何か忘れ物でもした?」
いつもと変わらない、優しい笑顔。
本当にあと数ヶ月で死ぬなんて、微塵も思わせない。
私はベッドのそばにある、丸椅子に座る。
「……もしかして、聞いた?」
お母さんはなにかを感じ取ったようで、そう聞いてきた。
自分から言おうと思っていたのに、いざ本人を眼の前にすると言葉が出てこなくて、ただ頷くしかなかった。
「そっか、それで戻ってきたのね。ごめんね、花。辛い思いさせて」
泣くつもりなんてなかったのに、お母さんの顔を見て、声を聞くと、自然と雫がこぼれ落ちた。
お母さんがそっと私の頬をなぞる。
「お母さんね、死ぬ前にどうしても見たいものがあるの。花、協力してくれる?」
「なに?」
「お母さん、花の彼氏に会いたいの」
「……はい?」
まさかの言葉に、涙が引っ込んでしまった。
「隠してもムダよ。知ってるんだから」
いやいやいや。
はい?
なにを言っているのか、さっぱりなんですが?