ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 研究所では所長を始め研究員のみんなが待ち構えてくれていた。

「早く奥へ運ぼう、さあ」

所長の声に研究員たちがミライを抱え上げて運び、僕はその後をついて歩いた。

「ビックリしたよ、君から連絡もらった時は」

と心配そうに声を上げる所長。と横から本田君が口を開いた。

「セーフモードで再起動してるんですよね。だったらシステムには問題ないと考えていいんじゃないでしょうか?」

と歩きながらズレたメガネを押し上げる本田君。

「いやわからないよ、調べてみないとね。ひょっとしたらいくつかデータやシステムは壊れてるかもしれない。だからセーフモードで再起動したって事もあり得るよ」

と眉間に皺を寄せる所長。

「普通に再起動出来ない状態かもしれない、って事なの?」

横から聞くクワン。

「最悪、初期化も考えておかないとね」

「初期化?」

「そう。ミライの頭の中をまっさらな初期の状態に戻すって事さ」

そんな!今までの事が全て消えて、初めの白紙の状態に戻ってしまうって事か!

「ホントに初期化するんですか?」

そんな事になったら一大事だ…。

「とにかく、調べてみないと何もわからない。データの抽出に全力を注ごう。みんな、今日の予定はすべてキャンセルだ!」

と声を張り上げる所長。研究員たちが慌しく動き出す。必死になっている所長たちの姿を見るにつけ、自分の不甲斐無さを思った。

(見てるしかないのか…)

僕なんか、ここでは何も出来ない見学者に過ぎないんだ。
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