ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「じゃあ買って来よう。来る途中にお店があったからね。適当に見繕ってくるよ」

と所長が笑顔で出て行った。

「あと、体拭いて着替えた方がいいわ。タオルはどこ?」

と尋ねられた広海君が僕に目配せをした。

「先生お願い」

こんな時は可愛らしくお願いしてくれるんだな。

「揃えるよ」

今日は僕も素直にお願いを聞いてあげよう。

「ミライさん、」

と、広海君がじっとミライを見つめた。

「ありがとう」

そう言葉を掛けた広海君の目は、風邪のせいか嬉しさのせいか涙が薄っすらと滲んでいるように見えた。

「どういたしまして」

返事を聞いた広海君のミライを見る目が、その日からちょっと変わったように思えた。
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