ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 後期の授業が始まり、大学にいつもの賑わいが戻り始めた、十月。

「…もう衣替えの季節ね」

週明けの実験室の中で広海君がカレンダーをめくりながら呟いた。

「ミライさんがここに来てもう半年かぁ。ホント早いわよね~。あ~ぁ、また一つ歳取っちゃうじゃない」

と、広海君が口を尖らせて愚痴をこぼすと同時に、携帯が鳴った。

「所長だ」

一度広海君に目配せしてから携帯を開く。といつもの陽気な所長が画面に出た。

「やあ。ミライの…、定期検査の時期だから連れてきて欲しいんだけど、どうだい?」

と所長が言葉を選んで問い掛けてきた。

「ええ、大丈夫です行けますよ、今日は特に何もないですから」

目を遣った広海君が頷き返してくるのを確かめて答えた。

「じゃあ待ってるよ。色々とあるから二人だけでね。広海君ゴメンね~!」

と所長が見えない広海君に呼び掛ける様に声を上げて、電話を切った。

「じゃ、行こうかミライ。広海君、留守番ヨロシク」

頷いて立ち上がったミライの手を引き、後ろで大人しく手を振る広海君に微笑んで返して、実験室を出て所長の研究所へと向かった。
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