ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「広海君はダンロって店知ってるかい?」

と尋ねる所長。

「知ってるわよ」

そりゃそうだ。僕が最初に連れて行ったんだから。

「じゃあそこに7時って事で。イヴだからカウンター席しか取れなかったけど、いいよね。ボクはこのままミライを連れて帰ってから来るからさ」

と、所長がこっちを振り返った。

「君も予定なんかないんだろ?待ってるからね」

ってあの、なんか釈然としない言い方なんですけど所長。

「ええ」

まあその通りですけど。

「じゃあ、行くよミライ。娘たちが楽しみに待ってるんだよ」

「うん」

と頷いたミライを連れて、所長がテレビカメラを引き連れて出て行った。

(ふう…)

これで暫らくはカメラから開放されるな。

「ねぇ先生、私一度帰って着替えるから、迎えに来て。メール入れるから」

と、広海君が僕の答えを聞く前に机に向き直ってしまった。澄ました横顔には取り付く島もない。

(相変わらずだな)

でもまあ、一緒に食べようって気がある事はなによりだ。

「わかった。待ってるから、遅れないようにね」

呼びかける様に声を掛けて、研究所を出て大学へと戻った。
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