ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 メールを受けて迎えに出かけて、着飾った広海君と一緒にクリスマスムード一色の街の中をダンロに辿り着く。

「ここもすっかりクリスマスだな」

リースの掛けられた扉を開けて中へ入る。すでにテーブルには二組のカップル客が座っていて、僕の顔に気づいてパッと顔を上げたけど、それもすぐに元に戻った。

(そりゃ自分の恋人の方が気になるよな。なんてったってイヴだから)

広海君をエスコートして奥へ進みカウンター席に座った。とすぐ、マスターがスッと寄ってきた。

「驚きましたよ、テレビでお見かけした時は」

とニッコリ微笑むマスター。そういや話してなかったナ。

「あ、いや済みません、騙すつもりは無かったんですけど」

「いえいえ、構いませんよ。それではさっそく、はじめましょうか」

と微笑んで仕度を始めるマスター。

「えっ、いや、まだあと一人来るんですけど」

「いえいえ、今日はふたりだけのご予約ですよ」

とニッコリ微笑んで返してくるマスター。

「え、ふたりだけ?」

パッと広海君と見つめ合った。

(あっ!)

ハッと気がついた。初めからこうするつもりだったんだ所長は。

(ナニ企んでるんだか)

ま、こういう悪戯は悪い気はしないけど。

「まんまと引っ掛かったワケね、私たち」

と口元を緩める広海君。どうやら満更でもなさそうだゾ。

「では、ごゆっくりどうぞ」

とマスターが手際よく皿とグラスを並べて離れていった。
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