ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「そうだ。私は、あそこで事務局長をやっている男が大嫌いでな。あの男がいる限り、私はあそこへ足を運ぶ気はない」

とフンッと息巻いて机の向こうへ廻って、両袖椅子に腰掛ける教授。ビックリですよ、まるで子供じゃないですかその理由…。

「後で詳しく報告するようにな。宜しく頼んだぞ」

と、いつものように新聞をバサッと開いて鼻眼鏡で読み始めてしまった。

(…いい身分ですね、教授って)

悔しいというか羨ましいというか。…早く出世シタイ。

「さあ、さっそく行きましょうかぁ!」

と、所長が僕の気持ちなんかお構いなしで横から明るく声を掛けてきた。ニコニコとまるで待ちきれない楽しげな笑顔をしてる。

(ウ~ン、この人もちょっと普通じゃないな)

まあ、何か人と違うところがあるから教授だ所長だって身分になれるのかも知れない。さて、果たして僕は―。

「私の車でご案内しますからー。さあ行きましょう行きましょう」

とサッと部屋の扉を開けて待ち構える所長。

(わかりました、わかりましたよ)

雰囲気に背中を押されるように、教授室から外へと出た。。




 車で一時間ほど走った所にある、周りを緑に囲まれた自然科学研究科キャンパス。正門を抜けてすぐの場所に真新しい飾り気の無い四角いビルが建っている。
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