ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「さあ着きましたよ」
脇にある駐車場に止まった車から降り、所長に導かれてビルの正面へ歩いた。後からついてくる彼女のヒールの音がコツコツと耳に響いてくる。低木の植木に囲まれた緩いスロープのアプローチに続くエントランスはガラス張りで、オートロックになっている二重の自動ドアの向こうに無機質なコンクリート壁に囲まれたがらんどうの吹抜けの空間が見えた。
(なんにもないな…)
薄暗い大きな吹抜けの空間の壁に『技術・創造・未来』と大きな文字が躍る書が掲げてあるだけで、他にはなんにもない。
「ちょっと待ってください、すーぐ開けますから」
と所長が脇にある指揮台の様な台に載った液晶パネルに歩み寄った。パネルには『こんにちは』の文字が横向きに絶え間なく流れていたけど、所長が前に立って画面上部のスリットを覗き込んだ途端、『虹彩を認証しました。お帰りなさいませ』と文字が浮かび上がって、自動ドアがウィーンと開いた。
「へえ、虹彩で個人認証を」
さすがは理系の研究所。感心すると所長が大きく頷いた。
「ハ~イ。何しろ研究しているモノがモノですからね」
とニッと微笑んで中へと入って行く所長。そうだよ、こんな立派な建物の中で、
「一体何を研究してるんですか?」
尋ねると、所長が立ち止まってクルッと踵を返した。
脇にある駐車場に止まった車から降り、所長に導かれてビルの正面へ歩いた。後からついてくる彼女のヒールの音がコツコツと耳に響いてくる。低木の植木に囲まれた緩いスロープのアプローチに続くエントランスはガラス張りで、オートロックになっている二重の自動ドアの向こうに無機質なコンクリート壁に囲まれたがらんどうの吹抜けの空間が見えた。
(なんにもないな…)
薄暗い大きな吹抜けの空間の壁に『技術・創造・未来』と大きな文字が躍る書が掲げてあるだけで、他にはなんにもない。
「ちょっと待ってください、すーぐ開けますから」
と所長が脇にある指揮台の様な台に載った液晶パネルに歩み寄った。パネルには『こんにちは』の文字が横向きに絶え間なく流れていたけど、所長が前に立って画面上部のスリットを覗き込んだ途端、『虹彩を認証しました。お帰りなさいませ』と文字が浮かび上がって、自動ドアがウィーンと開いた。
「へえ、虹彩で個人認証を」
さすがは理系の研究所。感心すると所長が大きく頷いた。
「ハ~イ。何しろ研究しているモノがモノですからね」
とニッと微笑んで中へと入って行く所長。そうだよ、こんな立派な建物の中で、
「一体何を研究してるんですか?」
尋ねると、所長が立ち止まってクルッと踵を返した。