ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「人間そっくりのロボット、ヒューマノイドですよ」

ハイッ?

「ロボット?」

なんで?

(なんでそんな研究所が僕と共同研究を?)

と、所長がすかさず笑みを返してきた。

「ロボットの人工知能に組込みたいんですよ。人間の行動や仕草から、人間の感情を『ロボットの側が』どう分析して対処するかってプログラムをね。その為にあなたの研究から出来る限りの人間の行動データを拝借したい、とまあそういう訳ですよ」

と陽気に声を上げる所長。なるほど。そういう事なら確かに、僕は今まで通りの研究を続けていれば良さそうだ。

(それなら安心)

ホッと傍にいた彼女と目を合わせた。彼女もさっきよりは和んだ表情。と所長が僕の背中に手を掛けてきた。

「さあさあ、立ち話もなんですから、さっそく研究室に行きましょうか。むさ苦しい所ですけどコーヒーぐらいお出ししますよぉー。インスタントですけど」

とハハハと笑いながら、僕の背中を押してホール奥の階段へと歩いていく所長。

(…面白い人、だよなぁ)

らしくない。肩書きのワリには声も仕草もあまりに調子が軽いよ。

「具体的な内容は控え室でゆっくりお話しますから。それと、気になっているでしょう?」

と所長が横目で意味深に振り向いてきた。

「え?」

「ボクがあなたを選んだ理由」

と一瞬、所長の目がギラッと光った。怖いくらいに。

(な、なんだ、今の目…)

とそのまま明かりのついていない薄暗い階段を、カツカツと靴音を響かせて真っ直ぐ上っていく所長。

(タダ者じゃないのかもな、この人…)

何だろうこの胸騒ぎは。確かにこれだけの施設で生易しい研究はやってない筈。その研究の一翼をこれから僕が担う事になるんだ。

(この先、一体何が…)

何にせよ、半端には出来ない。所長の後について黙って階段を上る内に、自然と姿勢を正していた。
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