ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「それじゃあ、ここから説明していきましょうか」

と所長が振り返って話を切り出してきた。

「ボクらの研究の目標は、人間そっくりのロボット、ヒューマノイドを、『完璧に』作り上げること」

と、さっきとは別人のようにゆっくりと喋りだした所長が、並んだロボットたちを見渡しながら歩いて行き、全身シルバーの滑らかな曲線のカバーに身を包んだロボットの前で立ち止まった。寄って見ると手の指や肘膝の関節がもの凄く作り込んであって、肩や足の付け根の隙間から、ボディ内側のいかにもハイテク満載のメカニズムが覗いていた。

「よく出来てますねー」

水泳のオリンピック選手のような引き締まったボディを銀色に輝かせて軽くポーズを取って立っている一体のロボット。その前で優しげな眼差しで見つめている所長。

「ボクらは、まず人間そっくりの動きを実現する事から始めたんだ。歩いたり走ったりはもちろん、踊ったり、身体をくねらせたりって動きを、不自然さを感じない様にね。」

と身体をくねらせてみせる所長。

「これなら、キビキビ動きそうですね」

と言葉を返すと、所長がヒューマノイドの頭を我が子のように撫でた。

「ウン。動きの点だけ見ればこの子は立派な完成形さ。でも、この子は過去の通過点の一つに過ぎないんだよ」

とニッコリと振り返ってくる所長。

「えっ?これが通過点?」

これが完成形でも全然おかしくない。今まで見たどんなロボットよりも人間っぽい形をしてる。と、所長が奥のドアへ向き直って歩いていった。

「ここへ来るまでにもいろんな困難があった。いろんな失敗もあった。決して平坦な道のりじゃなかった。でも、ここにあるこの子たちを経て、ようやくボクらの思いは実現化したんだ」

と力の込もった声で、所長が突き当りの両開きの扉にギュッと手を掛けた。

「それじゃあ見せてあげるよ。ボクらが創り上げた、ヒューマノイドの完成形を!」

と所長が押し開く扉の向こうから、眩しいばかりにライトに照らされた空間が姿を現した。
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