ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「オーケーです!」

と円筒形の傍で、メガネの研究員がパッと声を上げた。

「始めよう!」

と所長の声の後、研究室の明かりが一斉に消え、辺りがシーンと暗闇に包まれた。

(おっ…)

カッと点されるスポットライトが一つ。と闇の中に伸びる斜め一筋の光の中に、輝くように白い円筒形が浮かび上がった。

「諸君!」

静まり返った闇の中に所長の声が響く。

「前世紀から続く基礎研究、幾体にも及ぶ実験機体、数え切れないプログラム。先人たちの偉大な成果を引き継ぎこの研究所に集う君たちの、寝食をも犠牲にした弛まぬ努力と苦労の数々。その成果がようやく形となって、我々の目の前に、こうして存在している」

と所長の言葉にじっと聞き入る研究員たち。

「まさに時は来た。さあ今ここに、ヒューマノイド第一号機の堂々たる誕生だ!」

と意気揚々とした所長の声と共に白い布がバババッと引き剥がされて、中から台座の上に立つ、純白の布を女神のように身に纏った女性の姿が現れた!

「…ん?あの顔は」

ライトの光の中で微笑みを浮かべて立っている見覚えのある顔は、さっき白衣を手渡してくれた彼女?

(…そうだよ、さっきの彼女だよな?)

どう見ても、繕ったような微笑みで立つ顔は彼女に間違いない。周りでは研究員たちがバタついている。とりあえずその場凌ぎで立っているのか?

(よくやるよ)

何も取り繕ってまでゴマかさなくても。

「ほほう、よく出来ているじゃないか」

と納得の声を上げたお偉方が彼女に歩み寄って行く。僕はそっと所長の傍に寄って聞いた。

「何か手違いでも?」

咎めるのは悪いけど、気になった。

「何かって、何が?」

と、逆に開き直って堂々と聞き返してくる所長。
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