夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】

私の事をまるで知らないような……。
ううん、何も知らない。
世間知らずの子供のようなあの瞳と表情。

彼がヴァロンで在ってヴァロンではなかった意味が、分かった。


「勘違いしないでちょうだいね。
彼の記憶の喪失はあくまでも、偶然。シャルマ様やわたくし達の企みでも、なんでもないわ」

「っ……そんな事、思いません!」

弁解するようなミネアさんの言葉に、私は思わず声を上げて首を横に振った。

ヴァロンは、生きていた。
三年間、生きていてくれた。
以前より少し痩せたように見えたが、穏やかな雰囲気に、清潔感のある装い。
ちゃんとそれなりの生活をしているんだと感じた。

そしてなにより、隠そうと思えば一生隠し通す事も出来ただろうに……。ミネアさんは私を引き止めて、ヴァロンの事を話してくれた。
その優しい心が、彼女の言葉は嘘ではないと信じられる。
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