夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】
コロコロと変わる表情と態度。
見ていて飽きない。
不思議と、ギルといる空間は心地良い。
多分俺はこの店で見掛けたのがギルではなくただの同僚ならば、声を掛けなかっただろう。
そう確信する自分の感情から、俺は自分がギルに好感をもっていると気付きながらも、当時は生意気でそれを素直に出すような人間じゃなかった。
「いてぇ、うぜぇ……。
てか、お前声でけぇんだよ」
この時俺は帽子とサングラスを掛けて、知り合いにしか分からない程度に変装していたが、ギルに名前を呼ばれたせいで他の客の視線がちらほら。
咄嗟にギルの腕を掴んで身体の方向を変えたから良かったものの、危うく正体がバレそうだった。
「あ!ご、ごめんね」
ギルはハッとして口を押さえると、小声で謝りながら申し訳なさそうに頭をかく。
いつもそう。こっちから声を掛けておきながらも不機嫌そうな俺の態度にもギルは怒らず、むしろ自らが謝るんだ。