夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】
【港街】

雨は、なかなか止みそうにない。


パン屋さんに駆け込んできた彼は、雨に濡れていた。
傘を持って、いなかったのだろうか?

さっきよりも強くなっている雨。
あんな小さなハンカチでは、もう拭いきれないはずだ。

風邪をひいたり、しないだろうか?


……。

何も考えたくない。
もう、気にしたくなんてないのに……考えてしまう。

ゆっくりと帰路を進む私の頭の中には、ヴァロンの事ばかりが浮かぶ。
きっとまだ、この街の何処かに居るであろう彼。


「っ……あの人は、もうヴァロンじゃないの」

小さく呟いて、言葉にして自分に言いきかせた。


ヴァロンはあんなにオドオドした人じゃない。
飲み物はほとんどお水しか飲まなくて、ホットミルクなんてお店で注文する人じゃなかった。

それから……。
それからっ……。

必死に”マオ”の存在を否定しようと、以前の彼とは違うところを思い浮かべた。
< 157 / 322 >

この作品をシェア

pagetop