夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】
僕が今日この港街に来たのは、とても仕事とは言えない祖父に頼まれた”お遣い”だった。
取り引き先に届け物をするだけの、仕事。
でも、今の僕には精一杯の仕事だった。
僕はすでに亡くなっている父の長男。
その長男が直々に届け物をすれば、取り引き先に誠意というものが伝わるらしい。
役割をもらえて、最初は嬉しかった。
自分に出来る事があるなら、やろうと思った。
けど……。
髪を染められて、瞳の色もカラーアイレンズで隠されて、高価なスーツや靴、時計や鞄に飾られていく自分を見る度にどうしようもなく虚しくなる。
そして。
そう思いながらも祖父に逆らう事も出来ない、そんな自分に一番嫌気がさすのだった。
「……また、怒られちゃうな」
自分の左手首を右手でさすりながら、苦笑いをこぼす。
さっきまでそこに身に付けていた腕時計は、先程ある人に渡してしまった。
そう、この黒い子猫と引き換えに……。