夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】
結局。
私は不覚にも楽しんでしまい、夕方まで付き合ってしまった。
こんな筈じゃなかったのに……。
心の中で溜め息を吐く私。
でも、本当に楽しかった。
無理矢理ではなく、偽りでもなく、私はいつの間にかアルバート様の前で微笑っていた。
すると、夕陽が射し込む広間で歩みを止めて、アルバート様が言った。
「この別荘はね。
妻が生前語っていた、夢の形なんだ」
「……」
優しい瞳に見つめられて、言葉が出なかった。
私達を包む雰囲気が変わり、一瞬で悟る。
あ、私は今フラれたのだと……。
この人は今でも、亡くなった奥様を愛しているのだと……。
それを言う為に、お見合いを断る為に、私をここへ誘ったのだと分かった。
勿論、私も断るつもりだったお見合い。
と言うか、めちゃくちゃにする予定だったお見合い。
だから、相手からフッてくれて良かったのだと思う。
醜態を晒し、自分の人生を棒に振り、両親の顔に泥を塗る事も、周りに迷惑をかける事もなく、私は冷静になる事が出来た。
馬鹿な人生に踏み外す事も、なくなった。