夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】

手の甲から手の平まで貫通した傷跡。

三年前の別れ際、そういえばヴァロンは左手に包帯をしていた。
これは、その時の傷なのだろうか?

痛々しい傷跡に、当時の事を思い出して視野が滲んでしまう。


「っ……あの、平気ですよ?
古傷なんで……もう、痛みはありません。
ただ少し動かしづらくて、物が掴みにくいだけです。
……だから。そんな表情、しないで下さい」

私の反応を見た彼が、困ったように微笑んで言った。


大丈夫な訳ない。
本来左利きだった彼にとって、それが上手く使えないという事はかなりの不自由な筈だ。

それに、こんな痕が残る位の怪我。
痛かったよね?
貴方の事だもん。きっとたくさん我慢して、頑張って、ここまで来たんだよね?


ーー傍に居たかった。

この傷だけじゃない。
私の知らない時間に、一体貴方はどんな試練を乗り越えてきたの?

溢れた想いが頰を伝って、彼の手に雫となって落ちた。
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