夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】

僕は何故、断らなかったんだろう?

招かれた食事の席に着いて、目の前に並べられた食事を見つめながらそう思った。

彼女にはーー。
アカリさんには可愛いお子さんと、まだ見た事はないが旦那さんがいる。
そのご家族の留守中に家に上がり込んで、その上お風呂に食事まで……。


旦那さんに知られたら、大変な事になるんじゃないか?

そう頭で分かっていながら、断れなかった。


きっとそれは、僕を食事に誘った時の彼女の表情がすごくよく似ていると思ったからだ。
誰もいなくて、リハビリも食事も、何もかもが孤独だった時の僕に。

可愛いお子さんに旦那さん。
暖かい家族を持つ彼女が僕と同じ境遇だなんてある筈がないが、少なくとも今孤独を感じているんだと悟って……断れなかったんだ。


ご馳走になる。
と僕が言った瞬間の、瞳を輝かせて微笑った少女のようなアカリさん。

ずっと、見ていたいと思う程の笑顔だった。
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