夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】

私には、何もない。

幼い頃。
楽しかったあの日の宝物は、全て私の手の届かないところへ行ってしまった。

夢《白金バッジ》も、憧れ《リディア》も、願い《ヴァロン》も……。


父の跡を継いで夢の配達人のマスターになったが、それも本当に良かったのだろうか?
と、時々思う。

マスターの仕事はもちろん、私には自分の事ですら出来ない事があるのだから……。

妻であるホノカさんから本職《医師》の仕事を取り上げ、夢の配達人になりたいと願う息子ミライにアドバイスも手伝いもしてやれない。

マスターとしてだけではない。
私は、夫としても父親としても不十分な存在。


ーー止めよう。

一つ思えば次々と湧き水のように溢れてくる感情を封じるように、私は辞表を机の引き出しにしまうと、席を立ち自室を後にした。

……
…………。
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