夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】
(5)
そんな訳ないーー。
そう思いながらも、私の中はリディアでいっぱいになっていた。
ドクンッドクンッと身体に響く鼓動と共に、リディア、リディアと何度も心の中で彼女の名前を呼ぶと、私は声のした方向へバッと振り返った。
すると、それと同時にすぐ傍まで来ていた人物が口を開く。
「マスター、ユイです!只今、戻りました!
無断で調査員の任を離れたご無礼、軽率な行動をどうかお許し下さいませ!」
懐かしい香りを漂わせながら、リディアが命を懸けて残した蕾が、座っている私と目線を合わせるように正面に跪《ひざまず》いていた。
ーーそうだ。
リディアが、もうここに居るはずはない。
けれど、ユイが身に付けている懐かしい香水と美しい声色が、私の心に優しく沁み渡る。
束の間だが癒されて、冷静にしてくれた。