夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】

ボクの位置からだと、まず男性の顔はハッキリと見えた。
調査員の制服を着ているがあまり見た事ない顔だったので、おそらくはまだ新人の部類。

そんなまだ新人が恋にうつつをぬかし、似合わない壁ドンをして、神聖な職場で女性を口説いてる。
その光景を見て思わずハァ〜ッと溜め息をつこうとした瞬間。


「いい加減にしてッ……!!」

と言う女性の怒鳴り声と同時に、パシンッ!!という音が廊下に響き渡った。

驚いて、もう一度目を向けると……。
ボクの存在には一切気付かず、絶えず女性を口説き続けていた男の手を引っ叩いて、俯いていた小柄な女性がキッと相手を睨み付けていた。

その様子にハッと息を呑む。
壁ドンをしていた男の手を叩き、睨み付けている女性の眼光。
横顔なのに、美しく強い。
そして、相手を奮い上がらせる威圧感。

その瞳は、ボクの憧れの人物。
ヴァロン様の眼差しによく似ていた。
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