夢の言葉と約束の翼(上)【夢の言葉続編⑤】

その姿と表情に、私の胸がドキンッと弾まない筈がない。

伊達眼鏡を外して、前髪を上げて、意地悪そうに笑う彼は……。
もう、”ヴァロン”がこの場に居るようにしか私には見えないのだから……。


ーーッ。

私の中で、その名を呼びたいと……。
呼んでみていいのではないか?と、いう感情が溢れて、口から飛び出しそうになる。

「ヴァロン!」って呼んだら、魔法が解けるみたいに、彼が戻ってきてくれるんじゃないか?って……。


ーー人間は、欲深い。

謙虚に生きようとしても、目の前に幸福を吊り下げられたら……。掴みたくなるもの、なのだ。

『私が好きなのは、”今の彼”。
勿論、思い出してくれたら嬉しいです。
……でも、彼がいてくれたらそれだけでいい。想い出なんて、また作り直せばいいんです!』

……。

もう一度、”今の貴方”を好きになるって思っていたのに……。
一瞬、マオさんの存在を忘れてしまう。

私の心は、やっぱり”ヴァロン”を捜してしまっていた。
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